調査と研究

調査と研究

マラソン中の突然死

【マラソン中の突然死予防のための新知識】

2020年8月18日 徳島市入田町 佐藤医院 佐藤隆久

@ホルター心電図よりマラソン中は高度な頻脈状態が続いている。そしてゴール前後は極端な心拍変動の変化がある。またマラソン中はトレッドミル運動負荷試験等によりかなりの高血圧状態も続いていると思われる。
Aトレッドミル運動負荷試験はマラソン前のメディカルチエックとしては不十分であるが、運動時過剰血圧反応を診るのには有用である。
Bマラソン前後の血液検査ではゴール後にかなりのCPKの上昇(筋肉の炎症)とヘモグロビンの低下(貧血)がみられることにより、身体的負荷が強い。
Cマラソン中の心停止発症はゴール前後が特に危険である。
Dゴール前の心停止は運動時高血圧が長時間続きプラークの破裂、血小板凝集、脱水等により冠動脈虚血(急性心筋梗塞)が起こりやすいのが主な原因であると考えられる。
Eゴール後は自律神経機能の乱れ、特に副交感神経機能直回復が遅れるため致死的不整脈(心室細動)が発生しやすいことが考えられる。
Fマラソン前の疲労、オーバートレーニング、過度のストレス等により交感神経の持続的緊張と副交感神経活動の低下をきたすためマラソン中の心停止予防には大会前のコンディションを整えることが非常に重要である。
Gマラソン中のホルター心電図検査(パワースペクトル解析)はマラソン前後の自律神経機能を診るのに有用である。特にマラソン後のHF成分の測定により副交感神経機能の回復程度を診ることが非常に重要である。

この論文は2019年8月の第259回の徳島医学会学術集会のポスターセッションで発表したものである。それは私にとっては初めての発表体験であった。現役市民ランナーの時にその検査を次々と行ったが、それを研究発表しようとは全く思いつかなかった。というのもその頃はランニングが日常生活の一部となっており、その方でとても忙しい毎日を送っていたからである。ところが、2019年の春に朝日新聞帯広支局の新聞記者から「マラソンの安全な走り」について取材を受けた(これは私が掲載していた徳島西医師会のホームページを見たためである)。そのために北海道の帯広からはるばると来ていただけるという光栄なことがあり、これを機会に研究発表しようと決意した。(2020年8月)

2019年4月26日 朝日新聞に掲載された記事 http://www.asahi.com/area/hokkaido/articles/MTW20190426011320001.html


 

最近健康志向のため、中高年者にとってジョギングやマラソンが盛んである。ジョギングは生活習慣病の予防、治療の最適のスポーツとなっている。そして、マラソン種目は2kmから100kmを越えるウルトラマラソンまで幅広く全国各地でマラソン大会が行われている。その一部の大会には厳しい制限時間があり誰でも参加することはできないが(エリートランナーだけの大会が一部存在する)、大半のマラソン大会は市民ランナーのために開催されている。よってそれらの大会では参加資格は一般には問われない。練習を積んでいれば(あまり練習していなくても)、誰でも参加可能と広く門戸が開放されている。

ジョギングは老若男女誰でも行うことができるスポーツである。ウエアーと靴があればいかなる場所でも可能である。時間も短時間から一日走る長時間練習までいくらでも調整できる。よって手軽な、身近なスポーツとして浸透してきているが、危険性も存在する。2002年末よりマラソン中の突然死の話題が浮上してきた。私は平凡なファンランナーであるが、それ以後その問題に大変興味を抱き、調査研究することにした。健康のために始めたとかそれを維持する為に運動しているとか、健康志向で行っているのに命を落とす危険性も潜んでいることを警鐘していきたいと思っている。マラソンやジョギングを愛する者として、今後このような悲しみ深いケースが少しでも減少することを強く願っている次第である。

2003年6月25日

佐藤医院 佐藤隆久

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