マラソン中の突然死
●運動負荷試験の実際(トレッドミル)
【トレッドミル運動負荷試験】
2003年7月2日、トレッドミル負荷試験を受けました。これは傾斜とスピードを変えて負荷をアップしていく方法であります。胸部には標準12誘導の代わりにMasonーLikar誘導法により12誘導心電図を記録します。左上肢には血圧計を装着します。
運動負荷試験において一般に負荷は最大心拍数の80〜90%(目標心拍数)に達した時点で中止とします。最大心拍数とは「運動量を漸増させてもそれ以上心拍数が増加しない最大運動時の心拍数」です。またそれまでに症状や兆候が出現すれば中止します(症候限界性)。負荷の方法についてはいろいろなプロトコルがありますが、その代表格であるBruce法をご紹介します。基本的には「多段階漸増式の負荷であること、速度と傾斜を変えることにより負荷量を漸増することの2点」です。
運動負荷試験のプロトコル
【Bruce法】
ステージ (各3分) | 速度 (mile/h) | 速度 (km/h) | 傾斜 (%) | 予測 METs |
---|---|---|---|---|
1 | 1.7 | 2.7 | 10 | 4.8 |
2 | 2.5 | 4.0 | 12 | 6.8 |
3 | 3.4 | 5.5 | 14 | 9.6 |
4 | 4.2 | 6.9 | 16 | 13.2 |
5 | 5.0 | 8.0 | 18 | 16.6 |
6 | 5.5 | 8.8 | 20 | 20.0 |
7 | 6.0 | 9.6 | 22 |
私の場合、ステージ6で中止。負荷時間は11分36秒(今回Bruce法の変形で1ステージ2分間で終了)最大心拍数は204/分、最大血圧は231/75、Maximaum Workload Attainedは19METs。
【Bruce法による負荷試験のデータ】
ステージ | 速度 | 傾斜 | 心拍数 | 血圧 |
---|---|---|---|---|
0 | 0.0km/h | 0.0% | 95 | 132/111 |
1 | 2.7km/h | 10.0% | 111 | 171/89 |
2 | 4.0km/h | 12.0% | 128 | 186/95 |
3 | 5.5km/h | 14.0% | 153 | 207/98 |
4 | 6.8km/h | 16.0% | 182 | 229/86 |
5 | 8.0km/h | 18.0% | 188 | 231/75 |
6 | 8.9km/h | 20.0% | 194 | 230/93 |
RECOVERY | ||||
1分後 | 1.4km/h | 0.0% | 150 | 167/70 |
3分後 | 0.0 | 0.0 | 136 | 189/107 |
5分後 | 0.0 | 0.0 | 121 | 154/101 |
7分後 | 0.0 | 0.0 | 127 | 142/91 |
8分37秒後 | 0.0 | 0.0 | 117 | 151/101 |
「最大心拍数」とは一般に
最大心拍数=220−年齢
が簡便法として用いられています。私の場合、220−49で171となります。十分に最大心拍数に達した?ので中止としました。その時旧BORG指数では13ぐらいの「ややきつい」程度でした。今回の負荷での実感は @心拍数と共に血圧の上昇が著しい A負荷をアップすれば、短時間で心拍数も血圧も上昇する Bランニングに慣れているせいか脚の疲労は少なかった C負荷もステージ6でもきつく感じなかった D短時間の運動なので、リカバリーもスムーズであった
負荷試験の所見としては、負荷後の虚血性変化なし、不整脈の誘発なし・・・正常所見でありました。
【心電図の実記録】
途中までは(歩き程度)きれいな記録が取れていましたたが、負荷がアップしランニングするようになると下記のような基線の揺れが強い醜い(見にくい)記録となりました。
(揺れが大きい記録時)
【トレッドミル負荷試験とマラソン前のメディカルチェックについて】
一般的な健診としての虚血性心臓病、不整脈などをチェックするには問題ないが、マラソン前の健診としては十分な検査ではないと考えます。
@ 負荷の運動時間が短くて、マラソンのような長時間運動時の心臓異常をチェックできない。・・・この検査で異常がなくても、長時間運動時の心臓は保証できない。
A ベテランランナーになれば、すぐに目標心拍数に達してしまう。負荷が弱すぎるため検査が不十分になる可能性あり。・・・私はBruce法のステージ6までいったが、マラソン時の急坂の上りに比べればそれほどキツイ負荷とは思えなかった。トレッドミル負荷の目標心拍数程度で何時間も走るマラソンでは短時間の負荷運動では見られない異常所見が発生する可能性がある。やはり短時間負荷であるトレッドミルではマラソン前の健診としては十分とはいえない。
B トレッドミル負荷試験などはあくまで病的心臓をチェックするには適しているが、バリバリの現役ランナーにおいては「マラソン中の突然死予防」のための十分な負荷試験とはいえない。
【トレッドミル負荷試験の有用性とその問題点】
@ 中高年者にて本格的にマラソンやジョギングを開始しようとする時、虚血性心臓病などがないか検査するのに有用である。
A 短距離走や急激なペースアップ時の心電図や血圧を観察するのに有用である。
B トレッドミルにおいてやや動きの強いランニング時の心電図記録は「きれいな記録」を取るのは困難である。
C ベテランランナーにとってはこの運動負荷では負荷が十分にかからない可能性がある。検者は被検者の安全性を考慮して、目標心拍数で検査を終了する可能性がある。ベテランランナーの場合軽い負荷でその目標に達してしまう。これでは健診の意味がなくなるので、ランナーを負荷する場合、「症候限界性」を重視して検査を行う必要あり。
<< 運動負荷試験 | 実技型運動負荷心電図 >> |