調査と研究

調査と研究

マラソン中の突然死

●運動中の突然死について

前回マラソン中の突然死例を書き並べましたが、中高年の男性が多かったですよね。よってこの年齢層にはマラソンは最も危険なスポーツなのでしょうか?1984年〜1988年の5年間にスポーツ中の突然死例についての報告があります(少し古いデータですが、最近でもこのデータがTV、新聞に登場していました)。

5年間で645例あり、男性は545例、女性は100例でした。種目別ではランニングが165例(26%)、ゴルフが87例(13%)、水泳が80例(12%)です。全体ではランニングがトップなのですが、年齢別にすると、40歳未満ではランニングの114例、40〜59歳ではゴルフの41例、60歳以上ではゲートボールの44例がトップなのです。

スポーツ種目別の年代別突然死発生数

順位 0〜39歳 40〜59歳 60歳〜 全体
1 ランニング
114
ゴルフ
41
ゲートボール
44
ランニング
165
2 水泳
58
ランニング
33
ゴルフ
40
ゴルフ
87
3 サッカー
24
水泳
14
ランニング
18
水泳
80
4 野球
21
スキー
12
登山
11
ゲートボール
45
5 体操
16
登山
11
水泳
8
登山
37

しかし年代別にスポーツ愛好家数が異なることを考慮した危険率の算出では

危険率=年間死亡者数/(人口×スポーツ参加率×年間参加回数×1回参加時間)

40〜59歳ではゴルフの危険率は低く、ランニングの危険率を1とすると0.6でありました。しかし60歳以上になると6.5になり、ゴルフは60歳以上の人にとっては最も危険率の高いスポーツとなっています。ゲートボールも60歳以上の死亡数が多く、相対危険率もランニングより高い数値を示しています。

この理由として、この年齢層では虚血性心疾患などの器質的心疾患を保有しながらスポーツしている可能性があると。逆にいえば、虚血性心臓病などの保有者でもこれらのスポーツは実施可能であり、それ故事故の可能性も高くなると分析されています。

この結果はマラソン愛好家にも当てはまると思います。10kmやハーフマラソンではタイムを競うランナーが多いですが、フルマラソン以上になると「完走することに意義あり」というランナーが増えてきます。中高年にとってはチャレンジ精神で「より長い距離を走ることにより体力の自信につながる」という気持ちで長距離に挑戦してみたくなります(私もそうですが)。

このような長距離志向は中高年ランナーにとっては突然死を含む危険性の問題が生じます。フルマラソンなどはジョギング程度の運動量で実施可能です。高い運動能力を必要としないので誰でも挑戦可能です。よって潜在性心疾患を持つ人が参加してもおかしくはありません。ですからマラソン中の突然死の中で心筋梗塞が多く見られる理由の一つとしてこの潜在性心疾患の問題があります。それ故心臓突然死の事故防止には「運動負荷心電図」が大きく取り上げられています。その運動負荷とはダブルマスター程度では意味がなく、そのスポーツに見合う負荷が必要とされています。

このようにマラソン(ジョギング)は生活習慣病、虚血性心疾患の危険因子予防に対しての有効な運動療法とされていますが、一歩間違えば心事故にもつながるという諸刃の剣になっています(私を含めほとんどのランナーは危険性よりその有効性を信じていますが)。現在そのような事故にならないための事前のメディカルチェックが必要と大きく叫ばれています。

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