調査と研究

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マラソン中の突然死

●不整脈、スポーツマンハートについて

【不整脈のマラソン参加規準】

前回循環器疾患のマラソン参加規準の一部をご紹介しました。次に不整脈のマラソン参加規準の主要なものを列記します。

1)上室性期外収縮
心疾患がなければ可

2)上室性頻拍
運動誘発性であり再発が予防されていれば可

3)心房細動、心房粗動
心疾患がなく、ジキタリス、?ブロッカー、Ca拮抗薬により運動時心拍が保たれていても不可また、治療の有無にかかわらず心房細動、心房粗動発作が6ヶ月以上なくなるまですべてのスポーツは不可

4)心室性期外収縮
@ 心疾患がなく心室性期外収縮が運動により消失するか、少なくとも増えなければ可
A 運動負荷試験により心室性期外収縮が増加するか、2連発までなら注意しつつ可
B 心疾患があれば不可

5)心室性頻拍
失神やその前駆症状、心疾患がなく最大運動負荷時に心拍数150/min以下の単源性非持続性心室性頻拍であれば注意しつつ可

6)T度房室ブロック
無症状で心疾患がなく運動で憎悪しなければ可

7)U度房室性ブロック
Wenckebach型
@ 心疾患がなく運動により憎悪しなければ可
A 心疾患で運動によりブロックが消失しかつ著名な洞除脈をみないか、または運動中、後に憎悪しなければ可  
Mobitz型 : 不可

8)V度房室ブロック    
後天性 : 不可    
先天性 : 心疾患がなく失神やその前駆症状もなく、幅狭いQRS波形で、安静時40〜50/min、活動で70〜80/minまで反応し運動中心室性不整脈がでなければ可

以上のようにアメリカ心臓学会のスポーツ許可ガイドからマラソン参加の可否についてまとめられているようです。私のマラソン暦は10年以上で、不整脈暦も10年以上前からあります。U度房室ブロックのWenckebach型が今も続いています。私の最近4年間の安静時心電図では洞除脈、洞性不整脈、1度房室ブロック、Wenckebach型ブロック、不完全右脚ブロック、左室側高電位(左室肥大の疑い)と6つの異常が見つかりました。これはスポーツマンハートによるものと解釈し運動を続けています。

【スポーツマンハート】

さてスポーツマンハートによる心電図異常にはどのようなものがあるのでしょうか。森博愛先生(徳島大学名誉教授)の心電図セミナーの中でも紹介されていますが

「スポーツ心の際に見る心電図所見としては、洞除脈、左室肥大、両室肥大、不完全右脚ブロック、ST−T異常、房室接合部調律、PR間隔延長(第1度房室ブロック)、Wenckebach周期、房室解離などが挙げられている。前田は20年間にわたり調査した我が国のトップクラスの運動選手475名に見られた不整脈の種類と頻度を表の如く示している」

異常所見 例数
洞徐脈<50/分 153 32.2
洞不整脈 86 18.1
ペースメーカー移動 13 2.7
上室性期外収縮 1.1
心室性期外収縮 22 4.6
異所性心房調律 0.8
房室接合部性補充収縮 0.4
房室接合部性調律 0.2
PR間隔延長 27 5.7
Wenckebach周期 0.6
洞房ブロック 0.4
完全房室解離 0.4
不完全右脚ブロック 27 5.7
完全右脚ブロック 0.6
WPW型心電図 0.4
PR間隔短縮 0.2

(前田如矢ら スポーツ心臓から)

この中で例数の上でベスト5は洞除脈153例、洞性不整脈86例、PR間隔延長27例、不完全右脚ブロック27例、心室性期外収縮22例となっています。私は平凡なランナーですが、心電図の上ではトップクラスの運動選手に肩を並べているようです。他の文献を見ましても、スポーツマンハートで紹介されているのは一流選手ばかりです。普通のマラソンランナーでどれくらいスポーツマンハートの心電図になっているかは不明ですが、私の知りえた範囲では洞除脈、洞性不整脈は多いようです。ということは他のスポーツと違ってマラソン愛好家では一流選手でなくともスポーツマンハートの心電図になりやすいのではと推察しています。

その理由のひとつとして考えられるのはその運動時間の長さではないでしょうか。フルマラソンやウルトラマラソン(フル以上の長い距離を走る)の愛好家は他のスポーツ一流選手顔負けの練習をしています。ウルトラに参加する市民ランナーの多くは毎月200〜300kmを走っています。これが標準でかなり多いと500〜600kmというランナーも珍しくはありません。運動の質は違いますが、体を動かす(心臓に負荷をかける)時間が他のスポーツと異なり非常に長いのでスポーツ心の心電図になりやすいのではと思っています。

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