調査と研究

調査と研究

マラソン中の突然死

●レース中の突然死とメディカルチェックについて

雑誌「ランナーズ」2003年11月号に掲載された私の論文です。

2003年6月26日サッカーのコンフェデレーションズ杯にてカメルーンのフェオ選手(28歳)が試合中に突然死したことは記憶に新しいことと思います。スポーツ中にはこのような非常に鍛錬された一流のスポーツ選手でさえ不幸な事故は起きてしまう可能性があります。マラソン中においても昨年11月の福知山マラソンにて2人の参加者が亡くなりましたが、その後も同様の事故は起きています。今後このようなマラソン中の突然死を予防するには私たちは何ができるのでしょうか。

第一にマララソン参加選手にもエリートランナーからビギナーまでいろいろな人がいて、走力、練習量などに大きな差があります。多くの参加者が集まれば、潜在性心疾患のある人、体調不良の人など事故を起こす危険性のある人が存在します。すべての参加者に共通点としていえるのは「マラソンは激しいスポーツである」という認識をもつことです。フルマラソンに例えれば、市民ランナーでは3時間から5時間という長い時間ほとんど休まずに走り続けるということで、身体(心臓)にはかなりの運動負荷がかかっています。速い人は勿論、遅いランナーでも同様です。よって、参加者は日頃から健康管理して大会に臨む必要があります。特に中高年者からマラソンを始める人は、すでに虚血性心疾患など動脈硬化的な病気がないかメディカルチェックが重要です。

第二に、メディカルチェックとしては安静時心電図以外に運動負荷心電図の重要性が叫ばれています。しかしこの検査の目的は虚血性心疾患の有無をチェックするのが主なもので、マラソンなどの長時間の運動に対しての安全性を十分に検査できるものではありません。私もその代表的な運動負荷試験のトレッドミル検査を2回受けてみました。その運動負荷時間はプロトコールにより差はありますが、代表的なブルース法で約12〜18分間でした。この負荷試験は症候限界性多段階負荷ですが、ベテランランナーであればこの程度の運動負荷では十分の負荷が得られません。マラソンランナーにとっては時間も短すぎます。よってこの検査で異常が無くてもマラソン中の安全性が保証されているとは言い切れないと考えます。

第三に、トレッドミル試験において心電図と共に運動中の血圧測定も行います。心拍数もさることながら、運動により血圧は急上昇します。最大トレッドミル運動で50代男性の場合平均最大収縮期血圧が192±22mmHgにも上昇するという報告があります。この運動性高血圧は危険性がないと言われていますが、潜在性に血管病変のある人はかなりの危険性が生じることになります。よって、虚血性心疾患の危険因子のある方(高血圧、肥満、喫煙者、高脂血症、糖尿病など)はこの運動負荷試験の重要性がアップします。

第四に、トレッドミル試験にて傾斜を付けずに速度のみ上げる負荷を行いました。その場合最高速度に負荷を上げても、心拍数上昇度は低く、自覚症状もかなり軽く感じました。それ故マラソン大会参加において心臓に不安がある人や体調不良の人はアップダウンのきついコースは避けた方がよいかもしれません。同じ距離でもそのコースの高低差により心臓に対する負荷が全然違います。

第五に、私は最新型の心電計を装着してマラソン中の心電図記録などを行っています。ウルトラマラソン時ジョギングペースで走っている場合でも心拍数は予想以上に上昇していました。前半の不整脈がなくても後半心拍数が低下しているにもかかわらずそれが多く出現していたこともありました。心臓に不安がある人はこのマラソン中の心電図記録が重要と思われます。

今後のマラソン大会参加においては日頃の健康管理、事前のメディカルチェック、当日の体調重視、自分に適したコース選択などで事故の危険性が低くなることが期待されます。

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